■ それぞれの体制づくりと仕事のやり方

栗山さんはレタッチャーになられてからどれくらいですか?

栗山 28年になります。ペイントボックスから始めて、Power Macintosh 8100が登場したのを機に独立しました。3年後には法人化して、それ以来、自分の目の届く範囲内の10人体制でやっています。面白いことに昔は「クリーチャーさん」と「さん」付けで呼ばれることが多かったのですが、最近では「クリーチャー」と「さん」なしで呼ばれるようになってきました。「あ、有名な会社になった証かも!」と思ったりしますね(笑)。そうなってくると、「僕に」ではなく会社に依頼をしてくれるようになってきているのかなって思います。


(左から)CREATURE INC. 栗山和弥さん・三田泰弘さん

アマナデジタルイメージングはどのような体制ですか?

大井 常駐スタッフを合わせると150人ほどいます。2DCG(ビジュアルディレクション / フォトレタッチ)、3DCG(動画・静止画)、モーション(ムービーディレクション / 編集)とディビジョンが分かれており、それぞれが強みを活かしながら、横の連携もできる形で仕事をしています。2Dと3Dを使える人は兼務することもありますね。中にはレタッチャーから映像編集に移った人もいます。

畠山 仕事はプロデューサーから直接依頼があるのですか?

大井 ケースバイケースです。個人単位で依頼されることもあれば、チームでやってほしいといわれることもあります。3Dや動画の仕事が発生する可能性があれば、最初からそういうチームを組むなどさまざまですね。


(左から)アマナデジタルイメージング 大井一葉さん・堀口高士さん

REMBRANDTはどうでしょうか?

西島 プロモーション領域全般の総合制作事業会社である博報堂プロダクツの中でグラフィック・ムービーの撮影を担うフォトクリエイティブ事業本部では、フォトグラファー、アシスタント、プロデューサー、REMBRANDTの合計約110名が在籍しています。REMBRANDTには20名前後のレタッチャーがいて、一時期は3DCGを扱う人材も20名ほど在籍していましたが、現在はポスプロを行う部署に在籍しています。REMBRANDT はフォトグラファーとレタッチャーが常に近くにいて、お互いに直接アドバイスができる環境そのものが特長です。


(左から)博報堂プロダクツ 西島英二さん・畠山祐二さん・高橋秀行さん

畠山 仕事の流れとしては、社内のフォトグラファーからオファーされる場合と博報堂のADからの場合と、大きく2系統あります。当社の場合は個人商店タイプなので、依頼を受けたらベースの切り抜きからフィニッシュまでひとりで担当します。ほかのレタッチャーに切り抜きだけをお願いするようなことはあまりないですね。

高橋 もちろんチームで行う仕事もありますよ。ただ基本的には、担当者が責任を持って最初から最後まで見るようにしてもらっています。そうすることで、仕事の流れやコミュニケーションなどの重要なことを学ぶことができると思うんですよね。

栗山 うちはひとつの仕事をみんなで分担して行うことが多いので、やり方がまったく違いますね。

堀口 栗山さんは今もニューヨークに行かれているのですか?

栗山 NYから帰国して3年くらい経ちます。最初は日本と同じようにADやフォトグラファーに対して営業していたのですがあまりうまくいかなくて。システム的に「REPを通さないとダメ」ということがわかり、REPにアタックしたら良い感触がありました。契約したREPから「遠隔で全部できるからNYにいなくてもいいよ」といわれたので、NYに行く理由がわからなくなってしまいました(笑)。

堀口 国が違うとやり方も違うんですね。勉強になります。



■ 今後求められるのは"クリエイターとしてのレタッチャー

ひとりの人がさまざまなスキルを身につけてハイパーとしてやっていくほうがいいのか、さまざまな部署の人がチームになってやっていくほうがいいのか、どのように考えていますか?

大井 それもケースバイケースで、依頼主である企業側が何を求めているかによると思うんですよね。"個"ごとに確かな技術があって、名実ともに売れる必要はあります。個のファンを作りつつ、その先にチームや会社のファンになっていってもらう流れが理想的ですね。だから、個のキャラクターやどんな技術を持っているかは当然重要です。

堀口 ひとりの人がたくさんのことをプロフェッショナルなレベルで準備することは非常に難しいですよね。2Dや3Dの技術はやればやるほど成熟していきますが、ほかの部分では追い抜かれていくこともあるはず。だったら、個々の技術的な特徴をまとめるほうが効率的だと思います。




堀口さんが携わった「PaperLab」(エプソン)。動画、静止画コンテンツの企画、ディレクションおよび制作を担当。

大井 その中で私は「自分の武器はレタッチ」だと思ってやっています。スペシャルな技術や表現を磨くことで世の中の需要も増えていくと思うんですよね。

堀口 "個"の層を厚くしていくだけでなく、きちんと発信していくことも大事になると思います。

高橋 こんなことをいっては怒られるかもしれませんが、昔に比べるとビジュアルが強い、印象に残る仕事が減ってきているように感じています。レタッチャーの方々は本心ではどのように感じているのでしょうか? すごい技術と表現力を持っていて、それを仕事で発揮する機会がないのなら自分の作品を発表するなど違う方法で発信していけばいいのになって思ってしまうんですよね。

確かにフォトグラファーの展覧会に比べると、レタッチャーの作品展はまだまだ少ないですね。

栗山 僕は生活するために仕事としてやってきて今に至っているタイプのレタッチャーなので、ゼネラリスト中のゼネラリストとして何でも知っていて、いろいろなフォトグラファーのとんがり方にできるだけ対応し、それを少しずつ増幅するという能力を求められてきました。その能力を培うことに注力してきたので、"クリエイターとしてのレタッチャー"にすぐに変身することは難しい。でも「自分の作りたいものを作るために、フォトグラファーに依頼して素材を撮ってもらって作品を作っていくようなレタッチャーが日本にも出てきてほしいな」とは思いますね。

畠山 レタッチャーという仕事を志すにあたって、栗山さんに憧れているレタッチャーは多いですけどね!

栗山 それはありがたいことですね。僕らってバランサーみたいな部分がありません? クライアントやフォトグラファーなどをまとめたり、みんなの意見を聞いて真ん中のアイデアを出したり。それはそれで必要な立ち位置だと思うんです。ただ、そういうレタッチャーとは一線を画すような"クリエイターとしてのレタッチャー"が出てきたら、すごいことになりそうですよね!

大井 "クリエイターとしてのレタッチャー"とは、具体的にはどのようなイメージを持たれていますか?

栗山 画家やイラストレーターに似ていて、手段が違う感じかな。

大井 カンプやアウトプットができるADに近いようなことではなくて?

栗山 ADはすべて自分でやるわけではないですよね。僕らは具体化できる技術はあるけど、それをゼロから考える能力を持った人は少ないので、2つの力を併せ持った人が"クリエイターとしてのレタッチャー"といえるのではないでしょうか。あと海外では、フォトグラファーが高いレベルのレタッチ能力も持っていて、それを個性にして活躍している事例もありますよね。


CREATURE 栗山さんが油絵風にレタッチした「映画ドラえもん のび太の宝島」。
©藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2018

今までにないタイプのヒーロー的なレタッチャーが出てくると、業界的にも活性化されていきそうですね。

高橋 もしかすると今はチャンスかもしれないですね。採用活動をしていると「レタッチャーになりたい」という若い人が減ってきていると感じます。それはフォトグラファーもスタジオマンも同じ状況なのですが......。ということは、この業界に魅力を感じてもらえてないのかなあと。皆さんの話を聞いていて、"ピンチをチャンスに変える"ではないですけど、今までとは異なるアクションを起こしたら面白い動きにつながっていくかもしれないと思いました。

西島 当社では、3ヶ月に1度、レタッチャーたちに作品を提出させています。レタッチャーは普段の仕事ではあまり自分の色を強く出せませんが、作品に関しては自由です。実はそういうところから仕事が発生することが多いんですよ。

高橋 そうなんですよね。レタッチャーとしての仕事の実績はわかっているから、仕事以外の部分で「今どういうことを考えているのか? どういう表現が好きなのか? を知りたい」といわれることが多いですね。先ほど栗山さんがおっしゃっていたように、これからは"受けた依頼を発展させていく力"と"ゼロから表現する力"が重要になってくると思います。「こういうことができたらいいのに」を仕事ではないところで試してみるとか、「こういう写真を撮ってほしい」とフォトグラファーに逆に依頼してみるとか、そういう部分を積極的に見せていってほしいと考えていて、うちのWebサイトに掲載されているレタッチャーの作品は仕事以外のものなんですよ。

畠山 REMBRANDTがWeb に公開している作品は、レタッチャー発信でフォトグラファーに撮影をお願いしています。ADが入っている場合もありますが、ほとんどの作品はフォトグラファーとレタッチャーで作品を作っていますね。普段、一緒に仕事をしているフォトグラファーとは違う関係性でセッションできるので、新鮮な気持ちでやりとりができるんですよ。ゼロから作品を制作することがクリエイターとしての発想力や表現力UPにつながっていると感じています。受動的ではなく、常に能動的でありたいなと。


博報堂プロダクツ 畠山さんがレタッチした「じっくりコトコト」(ポッカサッポロフード&ビバレッジ)。

大井 うちの場合も昇格試験の際に、フォトグラファーに撮ってもらって自分で作品を作るという課題があります。"スタッフ"から"レタッチャー"に昇格すると、直接お客さんとやりとりすることができるようになります。

畠山 受注権があるということは、アマナのプロデューサーを間に挟まなくてもいいのですか?

大井 大丈夫ですね。だからこそ自分をアピールする必要が出てきます。



■ 作品づくりと多様な入り口の開拓

堀口 皆さんは「レタッチャー」という肩書きをどのように考えていますか? 個人的にはレタッチャーという言葉が仕事内容を狭めている気がしていて、むしろ「デジタルアーティストです!」といってしまったほうがやりやすくなるのではないかなと思うんです。

高橋 なるほど、なるほど。でも実際は難しいですよね。アーティストとなると「作品を買ってもらう」という意味合いが強くなって、通常の仕事がやりにくくなってしまいそうで......。

栗山 やっぱり商業ベースで活動しているのでいいすぎては良くない気がしますね。ただ、アーティストとしてのレタッチャーの活動を行っていくことで、ギャランティを上げられたり、底上げにつながっていったら良いですよね。

三田 畠山さんに質問なのですが、作品を発表することでクライアントさんから直に依頼があったりしましたか?


CREATURE 三田さんがレタッチした「銀魂2」。
©空知英秋 / 集英社 ©2018映画「銀魂2」製作委員会

畠山 まだクライアントから直にはありませんが、作品を見たというADから問い合わせをいただくことはあります。フォトグラファーやADが作品を見て、「どういったものが得意なのか、好きなのか」をわかってもらえるので、お互いにズレがなく、仕事がしやすいですね。話のネタにもなるので、個人を知ってもらうための重要なツールにもなっています。

三田 クライアントから直に依頼がきたら面白い展開ができるのになって常々考えていて、担当者の方と話を膨らませながら絵づくりしていけたら、今までにないような面白いものが生まれると思うんです。でもまだそういう道がないのが現状で......。

栗山 クライアントではないですが、とある有名な音楽のアーティストがうちのHPを見て「こういうふうに作ってほしい」とご連絡してきてくださったことはありますね。いやー、こういう話をすると刺激になって「作品を作ろう」という気になりますね!

高橋 絶対に大事だと思います! フラワーアーティストの東信さんは花屋ですが写真集を出していますよね。東さんが作り出した作品、世界観を見たくて本を購入すると思うので、そういうことをレタッチャーでもしていけないのかなと思うんです。主体となって動くことの大切さを改めて考えていきたいですね。

博報堂プロダクツのフォトグラファーと、博報堂のADと、REMBRANDTのレタッチャーがコラボして制作した「脳よだれ展2018」を今年も開催するそうですが、過去の反響などはいかがですか?

高橋 「脳よだれ展」は統合的な発信なので"誰得"という話ではありませんが、リクルートの面では確実な効果があります。得意先にも可能性を感じてもらえているようなので、ものすごく大変なのですが毎回やってよかったなと思います。それと昨年は海外でも展示を行ったのですが、意外にもこういう試みは海外でもないそうで、いろんな言葉をいただき、手応えを感じました。レタッチャーも展示による直接的な効果はそれほどありませんが、普段、一緒に仕事をすることが少ないADと仕事ができたり、アイデア出しから関わることができます。レタッチャーからするとすごく新鮮なことだと思いますし、良い経験、勉強になっているのではないでしょうか。

大井 今後はフォトグラファーやADだけでなく、プロデューサーなどにも売っていったほうがよいのでしょうか?

高橋 そのほうが良いと思います。フォトグラファーが映像業界から声をかけてもらうことと同じで、レタッチャーも今後はいろんなところから声をかけてもらえる状況にしておかないといけないと思うんです。

大井 やっぱり自ら発信することが大事ですね。


博報堂プロダクツ 畠山さんがレタッチした「MINTIA」(アサヒグループ食品)。



■ "クリエイティブ魂"を発揮せよ

「SHOOTING PHOTOGRAPHER + RETOUCHER FILE」を制作していて感じたことなのですが、アウトプットされたものを見ると業界全体のレベルが上がってきていますね。一方で、AD側の発想も含めて似てきているというか、個性が感じられなくなってきた部分があるような気がしています。

栗山 日本ではADが主導することが多いからだと思います。冒険ができないから、ハッとするような個性を感じられるものが少なくなってきたのではないでしょうか。NYでは、お題がある中でも写真家の人が「光の加減がこうだから、こういうのを撮って、こういうふうにしよう」と提案していきます。「今までこういうふうに撮れていたのだから、もしかするとこんなものが撮れるかもしれない」と予想できる人が作ると、想像を絶するような作品や偶然にできた作品を提案することができるんです。仕組み的に飛び抜けた作品ができやすい環境なのだと思います。

大井 日本にはない仕組みですね。

栗山 僕がよくやる手なのですが、A案として指示書どおりのものを作っておき、B案として僕からの提案のものを一緒に出してみるんです。でも残念ながら大抵の場合は指示書に近しいものになってしまうんですけどね。「B案が良いのはわかるんですけど、もう一度上司(or クライアント)の確認をとることはできません」となってしまうんです。

高橋 でもそれってすごく大事なことですよね。たとえ提案型のB案が通らなくても"効いている"と思います。どんなに忙しくてもどんなに望まれていなくても"クリエイティブ魂"を出すべきで、B案を通すことは至難の技ですが、そういうアプローチは後々効果があると思いますね。実際フォトグラファーの立場としてはそれを期待しています。今後は"クリエイティブ魂"がもっと重要になってくると思いますよ。

畠山 最近は指示書がない仕事のほうが燃えますね(笑)。僕に委ねてくれている分、プレッシャーも責任も重くなりますが、いかにカンプよりも良くしていこうかとモチベーションが上がります。いわれたことだけをこなすオペレーターではなくて、自分のアイデアや意向を入れることでクリエイターとして接してもらえるようになると、レタッチャーの地位は上がると思います。

栗山 指示書に細かく書かれれば書かれるほど自由な部分がなくなって、偶然の産物が出てこなくなりますよね。



■ "クリエイティブ魂"を発揮せよ

現状のレタッチャー業界では、名前が売れているレタッチャーにオファーが集中しているところがあるように見えます。

栗山 きっとレタッチャーは個性が見えにくいのでしょうね。そうすると、やっぱり"作品"が大事になってくるのだと思います。作品を通して自分の表現したいこと、できることをまわりに知ってもらうこと。自分の名前をアピールする努力はこれからもっと必要になると思いますね。

もし僕が新人だったら、同時進行で動いている別の会社の仕事を「ただでいいからやらせてほしい」とお願いしてみるかなあ。できあがりが良かったら、同時進行でも仕事ができることをわかってもらえるし、次から声をかけてもらえるかもしれないですから。そういうことをやればいいのになって思いますよ。

高橋 栗山さん、アグレッシブ! でも重要ですよね。

うちにも新人フォトグラファーは積極的にBOOKを持って営業に来ますが、レタッチャーはほとんど来ないですね。

栗山 「自分が主体になって作品を作っているわけではないから」というのが大きいのだと思います。だったら「自分の作品を作ろうよ」ということに集約されるのかなあ。でもちゃんとしたものを作ろうとするとお金がかかって若い子には難しいですよね。まったく同じお題を出して、レタッチャーによってどんな違いが出るかを見せる、というレタッチャーの展覧会を「SHOOTING」で企画していただけませんか(笑)?

高橋 それ、面白そうですね! うちでやってもいいですか(笑)?!

栗山 自分のだけダメだったら嫌なのでみんな真剣に取り組むと思いますよ!

高橋 それだったらビフォー&アフターも出せるから、フォトグラファーの展覧会とは違った見せ方ができて面白くなりそうですよね!

栗山 作業を録画しておいて早送り再生をして見せたら面白いかもしれないですね!


博報堂プロダクツ 畠山さんがレタッチした「スポーツくじ BIG」。



■ 目指すはレタッチャーの地位確立

SNSやデジタルサイネージなどメディアの変化が著しいですが、何に使われるのか曖昧な場合はどのように対応されていますか?

堀口 基本的には先に使用媒体を確認し、それに適したサイズで作るようにしています。でも「マルチ」となっていることが多く、媒体サイズがわからないので、あまり大きくなりすぎない最大のところで作っておくことが多いです。あとは予算との兼ね合いもありますね。

栗山 大きいデータサイズのものは小さくコンバートできますが、小さいものから大きいものにはできないので、「Webでしか使わないから少ない予算でお願いします」というような依頼の場合は、制作前の段階で「Web用のサイズで作るから、もし大きく使うことになった場合は大きいサイズで一から作る必要があるので別途予算を取ってください」とお伝えしておくようにしています。

大井 最初にお伝えすることは大事ですよね。

三田 実際、小さいサイズで作って納品したものを「評判が良かったから大きく使いたい」とオーダーをいただき、小さいサイズで作ったものを見ながら大きいサイズで作り直すことはけっこうあります。後のことを考えて「最初から大きいサイズで作りませんか」と提案しても、予算の関係で難しいことが多いですね。

畠山 角版で作っておいたのに、後から「Webでは切り抜きで使います」といわれるケースもありますね。水色バックで撮っているのにWebでは赤バックにレイアウトされるというから、「このまま切り抜くとエッジが浮くから処理に時間がかかりますよ」といっても理解してもらえないことが多くて......。

西島 作業工程が多くなることを理解してもらうのは難しいですよね。レタッチャーは大抵の難題も解決できてしまうので、その手前でプロデューサーがお金と時間を先方と握っていく必要があります。

知らないところで2次使用されていたという話をよく耳にします。著作権の意識はまだまだ浸透していないのでしょうか?

栗山 法律で定められているわけではないですからね。著作物であること、2次使用する場合のことなどは契約を交わす際に決めておくべきですが、依頼を躊躇されてしまう危険性もあるので非常にデリケートな問題ですよね。


CREATURE 栗山さんが3DCG製作した「shu3」(SHU UEMURA)。

堀口 NYはどうですか?

栗山 NYでは事前に詳細な契約を交わします。でも日本は契約社会ではないですし、REPを通さずに個人で活動している人が多いから、契約時に2次使用料のことまではいい出しにくいですよね。

高橋 働き方改革やSNSの流行もあるので、広告会社もクライアント側も意識は高まってきてはいると思います。

栗山 ホクロをとったくらいではダメだとは思いますが(笑)、最終のフィニッシュにどこまで携わったかという観点で試行錯誤する必要はあると思います。

高橋 今後レタッチャーという地位を確立していくうえで、僕らのようなところから動き出さないといけないですね。



■ レタッチャーの発展性を考える

最後に、レタッチャーの仕事の面白さや今後の可能性、展開などを聞かせてください。

畠山 学生のときは漠然と「仕事って大変なんだろうなあ」と考えていたのですが、実際にレタッチャーとして仕事をしていて思うのは、大変なときももちろんあるのですが、常に "楽しさ"があります。同じ内容の仕事はないし、いろんな人に会うこともできますし。自分なりの工夫やアイデアを作品に込めて、それが世に出ているのを見るときは未だに嬉しいですね。ハードもソフトもかなり進化しているので、表現の伸びしろを常に感じています。

三田 細かい部分になってしまうのですが、たとえばハイライトを少し立たせるだけで全体が引き立つことってありませんか? 最近フィルムで撮られた自然系の写真のレタッチ依頼が多いので特にそうなのかもしれませんが、クオリティにつながるようなちょっとした"気づき"があったときに、レタッチャーという仕事の面白さ、奥深さを感じます。


CREATURE 三田さんがレタッチした「JINS SCREEN」。

堀口 媒体がスマホ主体になってきていますが、僕はそこに可能性を感じています。最近は文字を入れないビジュアルも出てきて、そういうインスタグラムの仕事にディレクションとして入ると、レタッチャーでもADになることができるんですよね。あとは"レタッチ"としてとらえるのではなく、"ビジュアライズ"のような視点で物事を考えると、プランナーから「絵を作る人」として見てもらうことができます。さらに、媒体に展開するときはデザイナーに発注するという構図もできる。CGのディレクションではキービジュアルを作ることができれば連動して動画にすることもできるので、レタッチャーが監督になることもできると思うんですよ。今までとは異なる展開、新たな道が作れるような気がしています。

畠山 発展性がありますね。

堀口 そうなんです。一歩引いて見渡して広くとらえてみると、さまざまな可能性があるなと感じています。アマナは広告代理店との仕事もあれば、企業と直接やりとりをする仕事もあります。企業と直接の仕事の場合は、求められる幅がとても広いので発展性はありますね。先ほど話に出てきましたが、自分の作品を作ってどんどん発信していくべきだと思いました。Imaging Directorとして活動し始めて1年ちょっとくらいですが、今後はもっと発信していきたいと思います。業界全体で盛り上げていけたらいいですよね!

大井 現在、広告業界が昔よりも身近になり、誰でも広告塔になれたり、ビジュアルを作ったりできる時代になってきています。特にレタッチャーがビジュアルに携わっている数は圧倒的で、最近ではニューヨークの広告授賞式にもレタッチャーが参加するなど、少し前では考えられなかったような動きがあります。ビジュアルの制作過程においてなくてはならない存在になっていると思うので、アマナのミッションでもある「ビジュアルコミュニケーションで世界を豊かにする。」ということを現場レベルから発信していけたらいいなと思っています。



【プロフィール】

高橋秀行 HIDEYUKI TAKAHASHI
福井県出身。1993年、日本大学芸術学部写真学科卒。博報堂フォトクリエイティブ入社(現・博報堂プロダクツ)。主な賞歴:ニュートークフェスティバルグランプリ、日本経済新聞広告賞グランプリなど。

西島英二  EIJI NISHIJIMA
東京都出身。1994年、博報堂フォトクリエイティブ(現・博報堂プロダクツ)に入社。 REMBRANDTの前身デジタルプリプレス事業の立ち上げに、SEとして入社前より参加。

畠山祐二 YUJI HATAKEYAMA
秋田県出身。2004年、博報堂フォトクリエイティブ(現・博報堂プロダクツ)にレタッチャーとして入社。主な受賞歴:カンヌライオンズゴールド、広告電通賞最優秀賞、交通広告グランプリ、ADC賞、APAアワード経済産業大臣賞、日経産業新聞広告賞、その他。

栗山和弥 KAZUYA KURIYAMA
1969年生まれ。グラフィックデザイナーとしてしばらく過ごしたのち、画像処理専用機のペイントボックスと出会う。1990年、日本での映画ポスターなどのキービジュアルのデジタル化に貢献。1994年独立。フリーを経て1996年有限会社クリーチャー設立。常に新しい事を試したい性格。変化し続けないと人生すぐに終わるんじゃないか病発症中。

三田泰弘 YASUHIRO SANDA
1989年生まれ。兵庫県出身。甲南大学を卒業後、London college of communication で写真を学び、CREATURE INC.入社。フォトレタッチを中心に、3DCGデザインやモーショングラフィックスの制作も行う。

大井一葉 KAZUYO Oi
多摩美術大学グラフィックデザイン科卒。アマナグループ 株式会社スプーンに入社。現在はアマナデジタルイメージングに所属。
主な受賞歴: 第61回 日経広告賞 コーポレートブランド賞 最優秀賞 第60回 朝日広告賞 広告主参加の部 準朝日広告賞 第28回 読売広告大賞 読者が選ぶ広告の部 部門賞 / 環境部門 優秀賞他受賞多数

堀口高士 TAKASHI HORIGUCHI
東京下町で育つ。広告制作会社でデザイナーとして3年間働いた後、amanaへ入社。レタッチャーを経て、現在はイメージングディレクターという肩書きで活動。2D、3D動画等の表現手段に縛られず、ビジュアルを見る目だったり、ビジュアルを創造する力を武器に、クライアントにとっての最適解を導き出せるよう、日々奮闘中。